注文戸建住宅購入者が考えるべき、リスクマネージメント
執筆者: 四方 裕伸 (リスクコンサルタント)
この記事を執筆・監修している専門家
ナビナビ住宅ローン編集部
住宅ローンを組む時に抱える「どうやって住宅ローンを選べば良いかが分からない」「金利の違いがよく分からない」「一番お得に借りられるローンはどれなの?」といった疑問・不安を解決できるように解説していきます。
この記事の目次
<はじめに>~リスクマネージメントを知る~
リスクを一つ避けると、利益を得るチャンスを一つ失うことになります。
その反対に、一つのリスクを避けられなかった場合、今まで得た利益をいくつも失うことになります。このバランスを取ることがリスクマネージメントで、普段の生活で万人が何気なく身につけているものです。
リスク回避を徹底しても、避けられないリスクは少なくありません。だからこそ、マネージメント判断で差が生まれるのです。
住宅を購入する時はリターンから考える
住宅を購入する時のリターンとは、何でしょう。
私が家を購入したきっかけは、いくつかのタイミングが重なったことでした。
まず、当時住んでいた家では将来介護するには廊下や水回りが狭く、「ヒートショックに配慮できていないので人間工学を取り入れた住宅に住みたい」と考えていたこと。そしてそんな矢先に、経年メンテナンスの時期が近づいたこと。そして年収が良くなった時期とも重なったことから、〔住み替え・建て替え・リフォーム〕を比較検討し、一大決心をしました。
日頃の住宅購入への思いと、きっかけは人それぞれだと思います。
しかし、検討や決心する際には、資金勘定で数字が頭から離れなくなってしまう人が多いのです。そうなってしまうと、誰もがリターンの事を忘れてリスクを真剣に考えることに時間を費やしてしまいます。
アドバイス①住宅購入のリターンを意識しよう
家のような高額購入での資金勘定にあたっては、どうしても金額にシビアになりがちです。一方で、リターンが大きいことを忘れない方が、リターンの恩恵を受けやすくなります。
例えば、日本で新築住宅を建てることは、周囲からも高く評価されます。仕事やプライベートでもプラスに働くことが多くなるでしょう。こうしたことから、マイホーム購入によって幸福感を上げることが可能なのです。
住宅購入時に考えるべきリスクは?
住宅を購入する際には、まずリターンから考えることが大切だとお話ししました。
一方で、住宅は大きな買い物であるがゆえに、どのようなリスクがあるのか不安を感じる人は多いでしょう。住宅購入時の代表的なリスクとして、「経済的リスク」と「自然災害リスク」が挙げられます。
経済的リスク |
・ローン返済シミュレーション |
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自然災害リスク |
・住宅性能評価書の確認 |
経済的リスクを知って対策をたてるためには、住宅ローン返済のシミュレーションを活用したり、家計の見直しやお金に関する知識を身に着けたりすることが有効です。
また、近年では、自然災害リスクに注目が集まっています。
自然災害リスクに備えるには、防災マップやスマホアプリでの安否確認や避難所検索などを活用するといいでしょう。
住宅購入に際しては、このほかにもさまざまなリスクが想定されます。次の章では、リスクマネージメント力を身に着けるために意識すべきポイントについて解説します。
住宅購入者に必要なリスクマネージメント力
法律の恩恵と限界を知る
住宅の購入に関しては、「建築基準法」や「宅建業法」など、さまざまな法律が存在しています。こうした法律があることで、私たちは多くのリスクから守られているといえます。
一方で、法律には限界もあります。法律を厳しくすればするほど安全にはなりますが、厳しすぎると逆に何もできなくなってしまいます。そのため、このリスクバランスのマネージメントによって法律は成り立っているのです。
こうしたリスクバランスの観点から考えても、法律によってすべてのリスクから守られるわけではないことがわかるでしょう。特にリスクに実績がないもの、つまり未知のリスクは避けられません。
法律の恩恵を知ったうえで、すべてのリスクを避けられるわけではないことを理解しておく必要があります。
住宅購入に関する思い込みリスクに注意する
住宅を購入する上では、さまざまな思い込みによってリスクを正しく理解できていないケースが考えられます。一例としてあげられるのが、「建築基準法」で定められた耐震基準についてです。
「耐震基準を満たしている住宅」と聞くと、「大きな地震でも損傷しない住宅」だと考える人は多いでしょう。しかし、この認識は正しくはありません。
2021年現在までの建築基準法では、耐震基準の条件として「中規模(震度5強程度)の地震ではほとんど損傷しないこと」「大規模(震度6~7程度)の地震でも倒壊・崩壊しないこと」という条件が定められています。
後者の「大規模(震度6~7程度)の地震でも倒壊・崩壊しないこと」という条件では、その目的が「建物が損傷しないこと」ではなく、倒壊などの致命的な損傷を避けることで「人命を守ること」だとされています。
つまり、「耐震基準を満たした家=地震でも損傷しない家」ではないのです。このように、購入者が勘違いをしがちな物理的要素が、住宅にはたくさん存在します。
最後は、決めたことを信じる
こうしたリスクについて理解することは大切ですが、想定外の不測の事態が起こってしまう場合もあります。
どうしても根拠が数字や説明できない事態が起こった場合には、自分の考えを周囲に伝えたうえで、自分が大丈夫だと思ったことを信じることも大切です。
正しく情報を得ながら判断を繰り返すことで、リスクマネージメント力を養うことができるでしょう。
心配ごとには、解決策がある
「職を失ったらローン破綻……?」
「住宅ローンの生命保険はどこまで必要なの?」
「税対策はどのような段取りで行えばいい?」
「地震保険って必要?」
「転勤の時の家計リスクは?」
こうした誰もが心配することは、知識をもって解決できます。
以前、ローン破綻再生アドバイザーから、高額住宅購入者とローコスト住宅購入者や職を失った人と働き続けている人とで、破綻者割合に差はないと聞いたことがあります。高年収サラリーマンであっても、ローン破綻してしまうケースは少なくないのです。つまり、出来事に対して人は乗り越える術や救済措置はありますが、人によっては生活スタイル改善プログラムが必要な場合も存在します。
木造注文住宅を購入するということ
新築の木造注文住宅に住むということは、リスクマネージメントに効果的です。地盤改良や断熱材、構造材、留め具、防腐剤等隠れたしまう部分や業者がついごまかしてしまう部分を自分の目で確認する事ができるからです。
自由設計と好きな土地を選べることだけが注文住宅のメリットと考えてしまうと、リスクが大きくなります。なぜなら、転居時期にはそれがいいと思った間取りや立地も、家族構成や周辺環境の変化によって最適ではなくなってしまうこともあるからです。いくら将来を見越して設計をしても、想定通りに進まないケースはあるため、変化への柔軟性を身に着けることも大切です。
注文住宅を購入する場合におすすめなのが、自分の目で建築現場を見ること。職人に「一生懸命作ってね。私も頑張って、大切に、上手にこの家を活用するからね」という気持ちが伝わることで、作る側も「よりよい家を作ろう」というモチベーションになるでしょう。
また、建築の様子を見ることは、のちのちその家で暮らすうえでとても大きな意味を持ちます。
人は贅沢には慣れてしまうものです。満点の家が建ったとしても、すぐに飽きがきます。そんな時、家を建ててくれた職人たちの顔を思い出すと、「しっかりとした保険に入っておこう」「毎日掃除をきちんとしよう」「メンテナンスに予算を取ろう」など「絶対この家を大切にしてやる!」と身を引き締めることができます。
アドバイス②いざというときに考えるべきことを決めておく
ローンには生命保険、災害には火災保険、家計にはライフプランでリスクを避けることは、数字で表せ一般的な正解には近づけます。しかしこれでは、備えたものをいざという時忘れがちです。肝に銘ずる条件を整えておくことが、マネージメントのコツです。
資産の定義
皆さんは、資産の定義をどのように考えていますか?
資産家と貧しい家の代表的な定義づけをするとどうでしょう。
- 「貯金・貯蓄が多い人」⇔「貯蓄の少ない人」
- 「不動産が多い人」⇔「不動産を持っていない人」
- 「貯め方を知っている人」⇔「お金が貯まらない人」
- 「収入が高い人」⇔「収入が低い人」
- 「贅沢できる人」⇔「買いたいものが買えない人」
このようにあげられます。
では上の定義に対し、資産家が貧しい人になるリスクとは、こう考えられます。
- 1.収入がなくなる。支出が増える。インフレになる。等
- 2.貯蓄が底をつく。返済が滞る。相続で分散する。等
- 3.今までの貯め方では貯められなくなる。等
- 4.病気やけがで働けなくなる。失業する。等
- 5.家計が厳しくなる。収入見込みが無くなる。等
この資産の定義に当てはめると、大多数の注文住宅を購入した人は、②若しくは⑤において、貧しい家から資産家に変化するのです。そのため、住宅購入後は②と⑤において、再び貧しい家に戻らないようにリスクに備える事を考えることとなるでしょう。
これが資産の定義における「トータルリスクマネージメント」となります。
トータルリスクマネージメントの重要性
近年、災害などによって、大きなリスクに直面するケースが多く見られました。国内においては、2018に北海道と大阪で大地震が起こり、台風で関西空港が冠水しました。2019年は台風15号19号を含む風と大雨の災害。海外ではオーストラリアの日本の国土の1/3の面積を焼き尽くす大規模火災。2021年現在も新型コロナウィルスの影響で、人体と世界経済に大きな災害が降り注いでいます。
個々に襲い掛かるリスクによる支出は、予測不能なものを含めて、範囲が広がっています。
こうした災害に伴い、偏った知識から「食糧の買い占め」「マスク不足」「経済恐慌」などの混乱が生まれることもあります。これが、スピードを求める資本主義のリスクです。
こうした場合には、まず「落ち着いて、俯瞰で物事をとらえましょう!」と唱えるしかできません。さまざまな情報が飛び交うと、焦りを感じて誤った判断を取ってしまいがちですよね。こうした時にも、一度冷静になってリスクを見つめることが大切です。
注文住宅を建てる時、建ててからの不安
注文住宅を建てる時、不安はつきものです。また、完成後も不安が消えないことがあると思います。まずは、身近な専門家に相談してみてください。たとえ専門家による偏った知識でも十分解決策は見付けられます。相談によるリスクを恐れないでください。相談できない自分が一番のリスクとなります。
まとめ
住宅購入時の相談を数多く受けて、感じることは、身近にリスクは数えきれないほど潜んでいるということです。そして、当事者は簡単なことにも気が付けなくなるということです。
目先の不安を解決できなくなった時、人は視野が狭くなります。だから、保険加入だけを高額にしたり、家計簿に無駄な時間や課金を費やしたりといった行動をとってしまいます。
大切なのは、不安と同等の喜びがある事を思い出すことです。そして損得は数字で勘定するものではありません。
「損して得を取れ」という言葉があります。私は、「そんなに損をしてまで、得るものには価値があること、知る人ぞ知る」という意味として理解しています。だから、「損したくないと思う心」を「コリ」としてマッサージしてほぐします。
住宅は長く使うものです。造る→きれいに使う→メンテナンスする→次につなぐ。長ければ100年以上使うものです。その時々で順応できるトータルリスクに備えながら、ライフスタイルの変化にも楽しく住まいを活用できる生活を送っていただきたいです。