コロナ不況と米政策金利引き下げの影響は?2020年4月の住宅ローン金利動向を予想します
執筆者: 千日太郎 (オフィス千日合同会社 代表社員)
こんにちはブロガーの千日太郎です。
新型コロナウイルスの感染拡大リスクで米長期金利が市場初の1%割れとなり、米連邦公開市場委員会(FOMC)は3日に0.5ポイントの緊急利下げを決定しました。
世界保健機関(WHO)は7日に感染者が全世界で10万人を超えたことを受けて声明を発表し、感染拡大防止に向けた取り組みを続けるよう各国に呼び掛けています。
緊急利下げは2008年10月のリーマンショック以来ですが、3月の住宅ローン金利は下がったとは言いながら、この歴史的な米政策金利の利下げと比べると実に地味な下がり幅でしたね。
金融市場の長期金利は将来予想を織り込んで瞬時に下落または上昇します。
一方で住宅ローン金利については金融機関の思惑も絡んできますので、必ずしも長期金利と連動するとは限りません。
今日は金融ビジネスを知る公認会計士の視点から2020年4月の住宅ローン金利動向を予想します。
この記事を執筆・監修している専門家
ナビナビ住宅ローン編集部
住宅ローンを組む時に抱える「どうやって住宅ローンを選べば良いかが分からない」「金利の違いがよく分からない」「一番お得に借りられるローンはどれなの?」といった疑問・不安を解決できるように解説していきます。
この記事の目次
住宅ローンの金利予想は調達金利と融資金利の側面から行う
千日が毎月公開している金利予想は、そのスタートから一貫して同じ方法によっています。
具体的な金利の予想を見る前にどのような方法で予想をしているかを確認していただき、納得の上でご利用ください。
金融機関では、小売店が原価と売価の差益によって儲けを得るように、調達金利と融資金利の差益によって儲けを得ています。
お金を商品にしていると考えれば、調達金利は商品の原価であり、融資金利は商品の売価です。
調達金利:金融市場から資金を調達するために払う金利 融資金利:私たちに住宅ローンを融資するときに課す金利 ➤:お金の流れ ():金利の種類 |
千日の金利予想は、金融市場の動向から少し先の調達金利を予想し、金融機関の営業方針から融資金利の傾向を推理して予想を出しています。
今のところ金利予想が的中しているのは、少し先の金融市場がわたしの想定内の動きをし、また、わたしの金融ビジネスに対する理解が大きく的を外していないためです。
どちらかにズレがあると、それだけ予想にズレが生じることがあります。
調達金利の側面:2020年4月の住宅ローン金利に影響する金融市場の動向
金融機関にとっての調達金利が上がったり下がったりする要因の一つが金融市場の長期金利(10年国債利回り)です。
こちらは2020年1月から2020年3月1週目までの日米長期金利の推移をグラフにしたものです。
米国と日本ではもともとの金利のベースが異なるので、両者を比べやすくするように米国の1.75%と日本の0%が同じ高さにくるようにしており、目盛りは0.2%刻みで統一しています。
米国長期金利(青の折れ線グラフ)が1月後半あたりを境に下がり始めています。
これは新型肺炎のリスクを大きく見た投資家たちが株式を売却し安全資産の債券を買ったためです。
さらに2月17日に米アップルが業績予想を下方修正したことがきっかけとなり、世界経済への実害が具体的に認識され、さらに本格的なリスクオフ(株式を売り債券を買う)へと動きました。
同時に各国への感染者の拡大が明らかとなり、この3月に入ってからの米国の長期金利は史上初で1%を割り込み、0.7%台まで下がっています。
この長期金利の下落を受けて3日に米FOMCが0.5ポイントの緊急利下げを行いました。
これは2008年のリーマンショック以来のことなのですが、奇しくも千日太郎が初めて住宅ローンを組んだのがリーマンショックのときでした。
当時のわたしは今のように住宅ローンに詳しくなかったということもあり、ギリギリまで変動金利か固定金利かを決めかねていました。
しかし、リーマンショックの緊急値下げを見て、「当分は金利が上がることは無いだろう」と変動金利に決めたのでした。
では実際どうだったのか?
このグラフのように、リーマンショックによる緊急利下げ後の米政策金利は2015年12月から上昇に転じましたが、日本の政策金利はむしろさらに下がりマイナス金利となって今に至ります。
これは結果論ですが当時のわたしの判断は今のところ正しかったと言えるでしょう。
今後どれだけ不況が続くかは不透明ですが、新型コロナウイルスによる景気後退リスクは中央銀行の対応レベルとして、リーマンショック級の一大事であることは間違いないです。
違うのは、その原因です。
リーマンショックはアメリカ第4位の投資銀行だったリーマンブラザーズが、サブプライムローンと呼ばれる高リスクの住宅ローンで大規模な損失を出し、事実上の破産となったことと、それを原因とする世界同時不況です。
今回のコロナショックは新型コロナウイルスのパンデミックリスクですから、ウイルスの収束によってリーマンショックより早期に復活する可能性もあるといえます。
融資金利の側面:2020年4月の住宅ローンの金利に影響する銀行の営業方針
この3月は多くの日本企業の決算月であり、新築マンションの引き渡し、異動による引っ越しなどで住宅ローンの実行が集中する時期です。
しかし新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めるために中国を中心に経済活動が停滞しており予定どおりに3月に実行できず、4月にずれ込む人が増えています。
通常の4月は3月の反動でぐっと引き渡し件数が減る月なのですが、例年よりも分散されて多い実行件数が見込まれる月になりました。
つまり、今年の4月は金融機関にとっては3月と同様に金利を上げても利用者に逃げられる可能性が少なく、かつ例年よりも実行件数が多い月ということです。
金利を上げられるならば、できるだけ金利を上げたいけれども、前述のように金融マーケットは未曾有の低金利ですから、金利を上げる大義名分が無いという状態です。
金利タイプ別2020年4月の金利予想
では、金利タイプ別に2020年4月の金利がどうなっていくのか予想していきます。
3月第一週までの公開情報を前提とした予想になります。
30年超の超長期固定金利は下がる
こちらは、30年超の超長期固定金利の代表であるフラット35(買取型)の金利と長期金利の推移を2019年9月から2020年3月までとったものです。
フラット35の金利は前月の20日前後に決まりますので、その時点に青い棒グラフのフラット35(買取型)金利を立てています。
直近の長期金利に対応するフラット35の金利(左の軸)は、おおむね1.15%~1.2%位となっています。
ただしこれは日銀が長期金利の急降下を食い止めるべく買いオペで市場に介入し、債券価格を操作したので今後はさらに下がる可能性もあります。
ちなみに2019年9月の1.11%がフラット35(買取型)の史上最低金利です。
その当時の長期金利は-0.24%だったので、3月20日の長期金利がその水準まで下がればフラット35(買取型)の金利も再び1.11%の水準まで下がる可能性があります。
20年前後の長期固定金利は横ばいor(期待含みで)下がる
2020年3月の20年固定金利の最低金利は新生銀行です。
その新生銀行では2月の1%から3月には0.95%に下げました。
ただしこの金利はこれまで最も低金利だった2019年9月とあまり変わらない水準です。
つまり今後の下がり代は大して残っていないのです。
また、2020年3月適用の20年固定金利でトップだったauじぶん銀行は横ばいの0.981%(当初期間引下げプラン)でした。
そして4月は金融機関があえて低金利をアピールする必要性が少ない月ですから金利を下げるインセンティブはありません。
長期金利がよほどの低金利にならない限り横ばいでしょう。
下がってほしいな…という期待も込めての予想です。
10年前後の中期固定金利は横ばいor(期待含みで)下がる
2019年上半期までの主要銀行の住宅ローンは10年固定をメインとして価格競争の様相を呈してきました。
そのため、10年固定は限界まで下がりきっている状態で、これ以上に下げると銀行が最低限の利益を取れない状態になってきます。
それを裏付けるかのように、2020年3月適用の10年固定金利でトップのauじぶん銀行は、横ばいの0.55%(当初期間引下げプラン)でした。
しかし、これまで2位以下であった多くのメガバンクやネット銀行が金利を下げてauじぶん銀行に並んだので、今後下がる期待が全く持てないわけでもありません。
お互い様子を探りあっている感じでしょうか。
基本的に4月は金融機関があえて低金利をアピールする必要性が少ない月ですので、基本的な予想は横ばいです。
しかし、金融マーケットの動向としてはまだ下がるので、下がってほしいな…という期待も込めての予想です。
変動金利は横ばい
変動金利は日銀の政策金利の影響を受けますので、黒田総裁が政策金利を下げれば、変動金利が下がり、逆に政策金利が上がれば全ての銀行で一斉に変動金利が上がります。
市場関係者の間では17、18日の米FOMCでさらに0.25%の追加利下げがある(ほぼ100%下げるだろう)と期待されており、ドル安・円高のリスクが高まりやすい状況にあります。
そうなってくると日銀が円高に対応するためにさらに政策金利を下げてくるかもしれません。
これまで日銀の黒田総裁はしばしば「マイナス金利の深堀り」を示唆してきましたので可能性はあります。
ということは、「日銀がマイナス金利政策の深堀りを実行に移せばさらに変動金利が下がる?」と思われるかもしれませんが、それほど単純にはいきません。
すでに変動金利はこれ以上下げられないほどの低金利になっているからです。
こちらは、リーマンショックから直近までの政策金利と変動金利の基準となる短期プライムレート(短プラ)の推移を表しています。
リーマンショック以後、日銀は景気を上向かせるために政策金利を下げることで、短プラを低い水準に抑えてきました。
これは、金融機関が貸し出す金利を低金利に誘導することで、民間企業の設備投資を促し、景気を上向かせようとする金融緩和政策です。
しかし日銀が政策金利をマイナス0.1%にまで下げても短プラはまったく下がらず今に至っています。
つまり、政策金利の影響を受ける変動金利は、今の水準が底でありこれ以上は下げられない水準まで下がっているという状況なのです。
住宅ローンの変動金利については、日銀の黒田総裁がマイナス金利政策を深堀りしようがしまいが、もうこれ以上は下がらないでしょうね。
まとめ~市場は不安定なので複数の金利タイプで審査を通しておこう
新型コロナウイルスの影響は世界経済に波及しています。短期的に金利が上がる要素は見つかりません。
しかし、ここで書いた金利予想は一定の仮定に基づく予想ポリシーに従って導き出した千日個人の予想であり、実際の金利の動きとは異なってくる可能性は大いにあります。
ある程度複数の金利タイプで審査を出しておき、想定外の事態に対する保険としてください。
これまで予想を大きく外したことはありませんが、予想は予想です。
今後、住宅ローンの実行までの間に、「どんな事件が起こり、それに金利がどう反応するのか?」を正確に予想することは非常に困難です。
用法容量を守ってご利用ください。