アフターコロナの住宅ローンはどうなる?2020年7月の住宅ローン金利動向を予想します
執筆者: 千日太郎 (オフィス千日合同会社 代表社員)
こんにちはブロガーの千日太郎です。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大ペースが落ち着いてくるに従い、各国では経済活動を再開する動きが出始めました。
これにより、投資家心理が上向いたことで比較的安全な資産とされる債券には売りが出て、債券価格が下がり長期金利は上昇していますね。
一方で6月5日に内閣府が発表した4月の景気動向指数の速報値は統計を開始した1985年1月以降で最大の下落幅となっています。
そして、10日には米連邦準備理事会(FRB)は2022年末までゼロ金利を維持する金融緩和方針を表明しました。
これらアフターコロナの一連の動きが、今後の住宅ローンの金利にどう影響するのか?
その動向を予想します。
※当記事の金利や情報は2020年6月11日時点のものを記載しております。
最新の金利情報は、必ず金融機関の公式サイトをご確認ください。
千日が毎月公開している金利予想の手法は一貫しており、記事の前半で解説していますので、必ず目を通しておいてください。
この記事を執筆・監修している専門家
ナビナビ住宅ローン編集部
住宅ローンを組む時に抱える「どうやって住宅ローンを選べば良いかが分からない」「金利の違いがよく分からない」「一番お得に借りられるローンはどれなの?」といった疑問・不安を解決できるように解説していきます。
この記事の目次
住宅ローンの金利予想は調達金利と融資金利の側面から行う
金融機関では、小売店が原価と売価の差益によって儲けを得るように、調達金利と融資金利の差益によって儲けを得ています。
お金を商品にしていると考えれば、調達金利は商品の原価であり、融資金利は商品の売価です。
調達金利:金融市場から資金を調達するために払う金利 融資金利:私たちに住宅ローンを融資するときに課す金利 ➤:お金の流れ ():金利の種類 |
千日の金利予想は、金融市場の動向から少し先の調達金利を予想し、金融機関の営業方針から融資金利の傾向を推理して予想を出しています。
この方法で金利予想が的中するには、少し先の金融市場がわたしの想定内の動きをし、また、わたしの金融ビジネスに対する理解が的を外していないことが前提となります。
どちらかにズレがあると、それだけ予想にズレが生じることがありますが、新型コロナウイルスの環境下では変化のスピードと振れ幅が大きいので、その点ご了承ください。
調達金利の側面:2020年7月の住宅ローン金利に影響する金融市場の動向
金融機関にとっての調達金利が上がったり下がったりする要因の一つが金融市場の長期金利であり、具体的には10年国債の利回りをいいます。
利回りとは投資した元本に対する成果として得られる利益が年に何パーセントかという割合を言います。
そして、債券の価格と利回りは逆に動くのです(負の相関関係)。
早い話が以下のような法則です。
✓債券の価格が上昇すると利回りが下落する ✓債券の価格が下落すると利回りが上昇する |
投資家のセオリーとして、戦争や不況などで世界経済のリスクが上がると値下がりの危険がある株式を売却し、国債などの安全資産を買います。
このため不況時は債券価格が上がり、利回りが下落するのがセオリーです。
コロナショックの余波と経済活動再開への期待から長期金利は高止まり
コロナショックから直近までの長期金利(日本の10年国債利回り)と日経平均株価の推移をグラフにしました。
オレンジの折れ線が長期金利、青の折れ線が日経平均株価です。これがクロスしているところがコロナショックです。
住宅ローンにおけるコロナショックは、投資家のリスク回避が行きすぎて安全資産の債券まで売りに走ったために、債券価格が下って長期金利が上がり、住宅ローン金利も上がってしまった現象です。
これは一時的なショック状態であり、数日で平常に戻ったのですが、緊急事態宣言の間は外出自粛によって取引が活発に行はわれなかったこともあり長期金利は0%で推移しました。
コロナショック前の長期金利は-0.05%前後だったのですが、このコロナショックを境としてベースが上がってしまったのです。
前述のように、長期金利が決まる仕組みは債券価格の取引相場によります。
コロナショック後も債券価格が安いままということは、リスク回避型の投資家にこのショック状態が残っていて債券を手放しやすくなっているということですね。
そして、経済活動が再開されたことでリスク選好型の投資家が安全資産の債券を売り、株を購入する動きになったことで、株価が上がり債券価格が下がって長期金利が上がってきています。
このように、リスク回避型とリスク選好型の両方のタイプの投資家が債券を売りやすい市況となっていることが、最近の長期金利上昇の理由なのです。
米FRBが2022年までゼロ金利政策を維持する方針を表明
10日には、米連邦準備理事会(FRB)が2022年末までゼロ金利政策を継続する方針を示しました。
目下の米国市場の動きとしては、リスクオンの修正で株安となり債券が買われて長期金利が低下しています。
米国の長期金利と日本の長期金利をグラフで重ねてみると以下のようになります。青の折れ線グラフが米国、オレンジが日本です。
日本の長期金利はベースが低いので動きに乏しいですが、米国の金利動向と連動していることが見てとれますね。
少なくとも2022年末までという長期間にわたりマイナス成長が続くFRBの見通しが正しいとすれば、米長期金利と連動している日本の長期金利も今の低金利水準で持続しそうだと予想できます。
融資金利の側面:2020年7月の住宅ローンの金利に影響する銀行の営業方針
銀行が7月の住宅ローンの金利を決定するのは6月末あたりです。
6月は銀行の第1四半期の決算月ですが、住宅ローンは融資を実行しなければ銀行の実績となりませんので、四半期決算月であることが金利に影響することは無さそうです。
また、7月はもともと完成物件が少なく、市場全体のパイ自体が小さいので、特に顧客獲得ということで低金利を打ち出すインセンティブは少ないと思われます。
むしろ、銀行が焦点を定めているのは本決算の3月に次ぐ中間決算の9月でしょう。
そのため、素直に6月末時点での長期金利の水準で7月金利が決まる傾向にあるとみています。
金利タイプ別2020年7月の金利予想
では、金利タイプ別に2020年7月の金利がどうなっていくのか予想していきます。
6月11日までの公開情報を前提とした予想になります。
30年超の超長期固定金利は不安定ながら横ばい
こちらは、30年超の超長期固定金利の代表であるフラット35(買取型)の金利と長期金利の推移を2020年2月から2020年6月までとったものです。
フラット35の金利は前月の20日前後に決まりますので、その時点に青い棒グラフのフラット35(買取型)金利を立てています。
今の水準のまま6月20日ごろに機構債の表面利率が発表されればほぼ横ばいとなるのですが、米FRBが2022年末までゼロ金利政策の維持を表明するまでは上昇していました。
目下コロナ以外の取引材料が無く、ちょっとしたことで変動する不安定な状況にあります。
今後何もなければ7月もおおむね横ばいで推移すると予想しています。
なお、民間住宅ローンの30年超の超長期固定金利は、このフラット35と似た動きになる傾向がありますので、フラット35の金利が横ばいとなった場合は民間住宅ローンの30年以上の超長期固定金利も横ばいとなる可能性が高いです。
20年前後の長期固定金利は横ばい
2020年6月適用の20年固定金利の最低金利はauじぶん銀行(当初期間引下げプラン)と新生銀行がトップ争いをしていますが、両行とも金利としては大きく変わらず1%をわずかに下回る水準で推移しています。
前述の銀行の営業方針として積極的に低金利を打ち出すタイミングではありませんので、おおむね今の水準を維持し、横ばいで推移していくとみています。
10年前後の中期固定金利は横ばい
5月から6月にかけての主要銀行の10年固定金利は横ばいで推移しました。
基本的に主要銀行の10年固定金利は限界まで下がりきっている状態で、これ以上に下げると銀行が最低限の利益を取れない状態になっています。
今のタイミングはそろそろ中間決算の9月に引き渡しの人達が住宅ローンを決めるころです。
このタイミングで金利を上げてしまうと、「金利を上げる銀行だ」というイメージを付けてしまいますので、よほどマーケットの長期金利に大きな上昇が無い限りは横ばいで推移するでしょう。
変動金利は横ばい
変動金利は日銀の政策金利の影響を受けます。日銀が政策金利を上げれば、変動金利が上がり、日銀が政策金利を下げれば全ての銀行で一斉に変動金利が下がるのがセオリーです。
リーマンショック以後、現在まで日銀は景気を上向かせるために政策金利をマイナス0.1%に下げ、低い水準に抑えてきました。
加えて、今年の6月10日に米中央銀行のFRBが少なくとも2022年末まで今のゼロ金利政策を継続する方針を表明しています。
米国が金利を上げないのに、日本が上がるということはまず考えられないですね。
そのため、しばらくの間は変動金利が上がることは無いと考えられます。
7月の変動金利は横ばいで推移するでしょう。
まとめ~アフターコロナの住宅ローン金利動向
最近は「アフターコロナ」という言葉をよく耳にするようになりました。
しかし、実体経済の復活はまだまだ先であり、7月までの間に金利が上昇したとしてもそれは期待だけの絵に描いた餅です。
そんな実体を伴わない金利上昇であっても、住宅ローンを借りる我々はその時の長期金利の影響をモロに受けてしまいます。
引き続き、日々の金利動向に目を配っておくことをお勧めします。
今後、住宅ローンの実行までの間に、「どんな事件が起こり、それに金利がどう反応するのか?」を正確に予想することは非常に困難です。
ある程度複数の金利タイプで審査を出しておき、想定外の事態に対する保険としてください。